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山寺がもたらした紅花文化
紅花は最上川舟運と北前船で上方に運ばれて華麗な西陣織や化粧用の紅に加工された。「紅をさす」という言葉の語源は紅花に由来する。千数百段の石段で知られる山寺「宝珠山立石寺」は平安時代建立の天台宗の古刹で、比叡山延暦寺から分火された「不滅の法灯」が千年以上も絶えることなく燃え続けている。
立石寺の寺領(現在の天童市干布地区)でも紅花栽培が盛んに行われ、特に「最上紅花」と呼ばれたこの地の紅花は「米の百倍・金の十倍」といわれた高級品であり、莫大な富をもたらした。そして比叡山と関係のある山寺の存在は比叡山と縁故の深い「近江商人」たちを惹きつけ、富を得るとともにこの地に上方文化を伝えている。
そのひとつが天童や尾花沢で開催される花笠まつりで、花笠は紅餅を広げて干す様子、花笠を持って練り歩く姿は一面の紅花畑が広がる光景を現しているという。交易の帰り荷としてもたらされた雛人形は雛祭りを生み、春の風物詩になっている。
また、「芋煮」も紅花文化のひとつ。紅花を運んだ最上川の船頭が地元の里芋と帰り荷の棒鱈を川原で煮て食べたのが発祥。川原で食す「芋煮会」は秋の風物詩になっている。
天童温泉
将棋の駒の産地として名高く、舞鶴山で開催される「天童桜まつり・人間将棋」は天童ならではのものだ。桜の名所は倉津川や霞城公園など。サクランボを中心としたフルーツの産地で年間を通して楽しめる。温泉は明治20年に湧出した高温泉で、泉質はナトリウム-カルシウム硫酸塩温泉。紅花にゆかりの深い山寺「宝珠山立石寺」は車で約20分。遠くに仰ぎ見る葉山や朝日連峰、月山などの景観も素晴らしい。
銀山温泉
寛永年間に銀山で働く抗夫が発見し、銀山閉山後も湯治場として賑わったと伝わる銀山温泉。尾花沢市の山川の両岸に三層四層の木造旅館が軒を連ね、古き佳き時代を彷彿させる。泉質はナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉。訪ねてみたいのが「芭蕉、清風歴史資料館」。江戸時代に紅花商人として活躍した鈴木清風を紹介する記念館だ。俳人でもあった清風は芭蕉に山寺参拝を勧めた人物で、芭蕉は紅花畑や山寺で名句を残している。
強酸性硫黄泉。硫酸塩泉。蔵王の湯力
蔵王温泉は奥羽山脈中腹の酢川爆裂火口の底から湧出する強酸性硫黄泉。源泉数は47、湯量毎分5千リットルの温泉天国だ。強い殺菌力を持ち肌をピリピリと刺激する強酸性硫黄泉は数少なく、pH値も1.3と日本トップクラスを競う。その理由は蔵王温泉街を流れる酢川の周辺には約5万年前の泥流の堆積物があり、その酸性変質によって他の成分が溶脱して酸性成分が非常に高くなっているからだという。
また、かみのやま温泉は、太平洋プレートが列島の地下深くに潜り込む際に巻き込んだ海水や泥を含むマグマから塩分が上昇し、蔵王山などの雨水や雪融け水が集まった循環地下水と混ざって湧出している。地球規模の海水と蔵王からの循環水が一体となった温泉で、泉質はナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉。入浴すればその効果を「蔵王」が教えてくれる。
蔵王温泉
高湯通りと樹氷通りを中心に情緒あふれる温泉街が広がる蔵王温泉。名物「稲花餅」「いが餅」が楽しめる店や、温泉卓球や射的などが楽しめる温泉パーラーなどが建ち並ぶ。人気の観光地は神秘の火口湖「蔵王の御釜」や「恋人の聖地サテライト」に選定されたロープウェイなど。絶景を楽しめる全長約26kmのドライブコース「蔵王エコーライン」もおすすめしたい。
かみのやま温泉
蔵王連峰西麓に位置する温泉郷。駅から徒歩圏にある新湯と湯町界隈は上山城の城下町として栄え、往時の面影を残す蔵や屋敷が佇む。大名の参勤交代の宿場町として賑わっていたのが「楢下宿」。茅葺き屋根が印象的な「大黒屋」は約250年前の建物と伝えられ、ランチ「おもてなし御膳」が楽しめる。土産には手間暇を惜しまず作られた「紅干し柿」がおすすめ。
生まれ変わりの旅
湯野浜温泉と由良温泉、あつみ温泉が位置する鶴岡市は、旧庄内藩士が刀を鍬に替えて開拓した日本最大の蚕室群「松ヶ岡開墾場」を中心に国内最北限の絹産地として発達し、今も養蚕から絹織物まで一貫工程が残る国内唯一の地として紹介されている。
また、出羽三山の自然を背景に生まれた羽黒修験道では「羽黒山=現在」「月山=過去」「湯殿山=未来」と見立て、三山をめぐることが「生まれ変わりの旅」として考えられた。江戸時代には「西の伊勢参り、東の奥参り」と称され、多くの参拝者で賑わった。現在の出羽三山めぐりは「羽黒山の石段詣」へ。階段を登ることで誰もが生まれ変わりの旅を体験できる。
湯野浜温泉
奥羽三楽郷のひとつ。日本海に沈む夕陽を眺める海岸沿いの温泉地。話題を呼んでいるのがクラゲ展示数世界一の加茂水族館。約1万のミズクラゲが漂う直径5mの水槽「クラゲドリームシアター」や「クラゲ解説コーナー」などが人気だ。歴史的な建造物が並ぶ「致道博物館」や松ヶ岡開墾場、北前船が生んだ酒田山居倉庫、土門拳記念館なども見て回れる。藤沢周平の小説の舞台の「海坂藩」は主に鶴岡が舞台で、物語に登場する名所をめぐることができる。温泉の泉質はナトリウム・カルシウム-塩化物泉。
由良温泉
日本の渚100選、快水浴場100選、日本の夕日100選に選ばれた海岸に面した温泉地。シンボルの白山島は「東北の江ノ島」と呼ばれ、日本海に沈む夕陽と白山島が織り成す感動の絶景で知られる。1400年前に父・崇峻天皇を打たれて逃れた蜂子皇子がその後開山したのが出羽三山と伝わる。春から晩秋にかけては磯釣り、防波堤釣り、船釣りなど太公望たちの楽園になる。泉質はナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉、ナトリウム・カルシウム-硫酸塩泉など。
あつみ温泉
千年以上の歴史を誇る風情あふれる温泉地。温泉の泉質はナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉。温泉街を流れる温海川河畔は、春は桜、夏の鮎釣り、秋には鮭の遡上と四季折々の表情を見せる。歴史ある朝市には日本最古の織物のひとつ「しな織」をはじめ、温海かぶ、新鮮な山菜などが並ぶ。散策時には3つの足湯「あんべ湯」「もっしぇ湯」「もっけ湯」も気軽に利用できる。