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温泉の中には「美人の湯」あるいは「美肌の湯」と呼ばれている温泉が数多い。5つ星の宿でも一番多いのが温泉の「美人・美肌効果」を謳う宿である。美人の湯とは肌をきれいにする、サラサラにすることが期待できる温泉を示すが、美肌づくりは温泉法の適応症には入っていないため、美肌効果のある温泉を見つけるためには、温泉の成分に注目する必要がある。日本三大美人の湯として知られているのが群馬県の川中温泉、和歌山県の龍神温泉、島根県の湯の川温泉だが、5つ星の宿にもその定説に負けないほどの美人の湯を楽しめる宿が多い。
では、その「美肌の湯」とは何か。肌のセラミドを整える作用があるのが天然由来の成分「メタケイ酸」である。その含有量が温泉1㎏中に50㎎以上であれば「美肌の湯」とされ、100㎎以上なら強力な「美肌効果の作用」の働きがあるとされている。5つ星の宿にもメタケイ酸を含む温泉が楽しめる宿が多いが、例えば別府八湯の鉄輪温泉「おにやまホテル」はメタケイ酸の数値が何と400㎎以上と驚くほど高く、しかも源泉掛け流しで楽しめる。泉質は塩化物泉だ。湯に浸かれば入浴後に肌がしっとりツルツルになるのを実感できる。日頃から乾燥肌にお悩みの方なら試さない手はない。宿の大浴場や露天風呂には「温泉分析表」が掲示されているから、入浴の際にはメタケイ酸の数値を確かめてみるといい。
美肌の湯を生み出す「四大美人泉質」
老若男女誰もが楽しめるのが無色透明・無味無臭で肌ざわりの良い「単純泉」だが、pH8・5以上の単純泉を「アルカリ単純泉」という。古い角質を落とし、新陳代謝を促進するため、肌のくすみを取ったり、ツルツル肌にする働きがある。pH値が高ければ高いほど肌の角質を取る働きが強いといわれている。
酸性からアルカリ性まであるが、温泉が中性に近いと肌に優しく、アルカリ成分が高ければ皮膚を軟化させて古い角質や汚れを取り除きやすくしてくれる。皮膚などを乳化して洗い流すため、まるで石鹸で洗ったようなすべすべ肌にする働きがある。湯上がりがさわやかで、特に脂性の肌の人はさっぱり感を感じるだろう。
肌にうるおいを与えてしっとりとした肌にしてくれる。メラニンの排出を助ける働きがあることから、「シミ防止の湯」「美白の湯」などとも呼ばれることもある。血液の流れを促し、老廃物のデトックスにも効果がある。
温泉らしさを感じるゆで卵の腐ったような独特な匂いが特徴的な温泉。肌を引き締め、ハリを高める作用が期待できる。血流を促進する効果があり、体内に酸素や栄養を運ぶと同時に老廃物の排出をサポート。うるおい成分をたっぷり含んでいる。
「美肌温泉証」に認定された温泉
ポーラ・オルビスホールディングスでは、温泉の美肌効果を科学的に実証する「美肌温泉証」サービスを全国の温泉施設・宿・地域などを対象に本格的に展開している。その背景にあるのが、「美肌温泉と謳っているが、お客様にどんな美肌効果があるのか聞かれて困ったことがある」「いいお湯だとほめられるが、自信をもって美肌効果をPRするため第三者機関で実証したい」「無色無臭の温泉だが、他の温泉とは異なる魅力を打ち出したい」といった宿からの相談。そこでポーラ・オルビスホールディングスでは、肌科学研究で培った自社の知見・分析技術を応用し、温泉の美肌効果を体系的に評価する方法を開発。さらに、温泉利用者が一目で理解できる認証ロゴマークをデザインし、研究報告書と認定証をセットでお渡しする「美肌温泉証」の仕組みを作り上げた。
5つ星の宿で「美肌温泉証」に認定された温泉を持つのが、山梨県の石和温泉「華やぎの章 慶山」と静岡県熱海温泉の「古屋旅館」である。慶山の泉質はアルカリ性単純泉。古屋旅館の源泉「清左衛門の湯の泉質は「ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉」。ともに宿自慢の温泉だ。
アルカリ性単純泉で、pHが高数値の宿
「アルカリ単純泉」に限定するなら、石川県輪島ねぶた温泉の一軒宿「海游 能登の庄」。アルカリ成分が5つ星の宿で最高値のpH10・2を示している。海を眺める宿には塩化物泉が多いものだが、日本海沿いに建つ能登の庄には裏山の麓からアルカリ単純泉が湧き出している。それも奇跡的なことだが、アルカリの成分濃度も奇跡的だ。湯に浸かるとトロッとした湯ざわりにまず驚き、上がると化粧水を使った後のように肌がつるつるする。女性にはぜひおすすめしたい宿である。2024年1月1日の能登半島地震によって大打撃を受け、宿としての復興はまだ時間がかかりそうだが、このすばらしい温泉だけは一刻も早く多くのお客様や地元の人々に楽しんでもらおうと温浴施設の早期復旧をめざしているそうである。
pH9・5のアルカリ単純泉で知られるのが静岡県下田の「観音温泉」。大浴場や露天風呂などの温泉施設や客室ほぼ全室で温泉が満喫できる上、客室風呂の蛇口脇には飲湯用のコップも置かれている。温泉水や温泉成分を使った各種コスメなどを販売していることでも知られ、温泉水はモンドセレクションで3年連続金賞以上、最高金賞の栄誉にも輝いている。東京都内のホテルのシェフがこの温泉水を大変気に入り、料理にも使用しているとも聞く。5つ星の宿でアルカリ成分のpHが8・5を超えている宿は数多いので、よく確認してみることもおすすめしたい。
アルカリ濃度が全国有数のph10・3を誇る硫酸温泉の宿
山梨県富士山温泉「鐘山苑」で富士山の絶景とともに楽しめるのが「カルシウム・ナトリウム-硫酸塩泉」。pHは全国でも有数の10・3。カルシウム分-硫酸塩泉は「鎮静効果」が高い温泉で知られ、鐘山苑でも身体の健康バランスを取り戻し、心身を自然の状態に戻す泉質であることをアピールしている。肌にももちろん有用である。霊峰富士の裾野まで見渡す伸びやかなロケーションとの相乗効果も大きい癒しの温泉といえる。
焼岳の麓に湧き上がるメタケイ酸たっぷりの炭酸水素塩泉
別名「硫黄岳」とも呼ばれる焼岳の麓にあって、岐阜県奥飛騨温泉郷「奥飛騨ガーデンホテル焼岳」に湧き上がっているのが「ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉」。国内唯一の超深層水温泉だ。温泉水1㎏に含有する陰イオンの成分をみると、成分全体の1793㎎中に炭酸水素イオンが1408㎎も含まれている。正真正銘の炭酸水素塩泉である。しかも、非解離成分のメタケイ酸が175・2gも含まれ、肌ですぐ実感できるほどの美肌効果が楽しめる。冬季は冷え込む土地柄。塩化物泉が薄いヴェールのように肌を包み水分や熱を逃げにくくしてくれるため、湯上がりのポカポカ感が長続きし、湯冷めしにくいことも人気を呼んでいる。
全国各地の温泉地で楽しめる硫黄泉
「硫黄泉」とは、1kgの温泉水に2㎎以上の総硫黄(硫化水素イオン・チオ硫酸イオン・遊離硫化水素)を含んだものをいう。「これぞ!温泉」と、温泉地に訪れたことを実感させるゆで卵のような臭いが独特だ。空気に触れると、遊離硫化水素が多く含まれる場合は乳白色、硫化水素イオンが多く含まれる硫化型はエメラルドグリーンに変わることから、その温泉の色を見ただけでも日本の温泉と実感できる。5つ星の宿で「ゆで卵のような臭い」の硫黄泉が楽しめる温泉地は数多い。北海道では地獄谷に噴煙とともに湧き上がる登別温泉。青森県では「国民健康保養地第1号」に指定された八甲田山麓の酸ヶ湯温泉。山形県では肌ざわりの良い白濁の硫黄泉が味わえる蔵王温泉。
福島県では日本一の硫黄泉とも称えられた歴史を今に伝える高湯温泉。群馬県では1800mの高地に涌く濃厚な酸性硫黄泉で知られる万座温泉。人気の草津温泉は硫黄の香は感じるが、酸性の塩化物・硫酸塩泉である。長野県では北信・中信エリアに硫黄泉の温泉地、岐阜県では飛騨奥地の温泉郷に硫黄泉が集中し、硫黄泉が火山性温泉であることがわかる。
西日本で集中しているのはやはり九州。5つ星の宿のある温泉地では熊本県阿蘇温泉や鹿児島県霧島温泉が挙げられる。