元禄元年、船で松島海岸に着いた芭蕉はまず瑞巌寺に詣でてから雄島を訪れた。そのときに詠んだ「朝よさを 誰まつしまぞ 片心」という句がある。”奥のほそ道で訪れた松島を私は朝となく夜となく、ひとり恋しく思い続けている“という心情を表したものだ。芭蕉の目と心にそれほどまでに強く刻まれた松島の美しさは、往時と変わらず人々を魅了する。高台に位置する松島大観荘からはその句碑が建つ雄島越しに松島の絶景が広がっている。大小260余りの島々が描き出す景勝美。島が波や風に浸食され、自生した松の緑が光や海と融け合う情景は言葉を失うほど。一幅の名画を鑑賞しているようでいつまでも眺めていたくなる。
「島々や 千々に砕けて 夏の海」。これも松島で詠んだ芭蕉の句だが、松島がより広く見渡せる松島大観荘ならば、島々が海に美しく砕け散っているような光景も手に取るように眺めることができる。

洗練された優雅なホテルでぼんやりと松島を眺めながら何もしない贅沢を…。そんな願いを叶えてくれるのが７階建「松韻閣」と5階建「松風閣」それぞれの海側客室だ。昼から夜へと美しく移り変わっていく海の情景を独り占めできる。松韻閣は全室が6畳または9畳の和室とツインベッドの和洋室で、現代和風と北欧テイスト、木の温もりが融け合うモダンな空間。ベッドからも松島を眺めることができる。2024年4月には一部客室がリニューアルされている。一方、松風閣は全室10畳和室のやすらぎ空間。海側客室では島々の松の緑、畳の香に癒されながら心休まるひとときが過ごせる。

日本三景の松島へと広がるビッグロケーションをひときわの開放感とともに楽しめるのが露天風呂と大浴場だ。色を変えながら表情を変えていく松島の海景色に心までも潤う。自然に溶け込むように大きくせり出した露天風呂はインフィニティ風呂さながら。遮るものがない景色を楽しみながら松島湾に浮かんでいるようなひとときが満喫できる。

湯上がりにはアロマが香る各種トリートメントや足ツボマッサージも利用できる。嬉しいのは日の出の時間に合わせて露天風呂がオープンすることだ。漆黒の松島湾が次第に茜色に染まり、島々が光に浮かび上がっていく光景は息を呑むような美しさだ。宿ではその時季の日の出時間も案内してくれる。湯上がりにはレモン水などで喉を潤すこともできる。

名物の牡蠣をはじめ海鮮グルメの魅力尽きない土地柄。楽しみは2種のバイキングだ。2021年にリニューアルオープンしたハイグレードな食空間『磯魚』では、地元漁師がその日水揚げした鮮度抜群の海の幸を満喫する「和風海鮮バイキング」で人気を呼ぶ。職人たちが握る寿司、天ぷら、牡蠣フライ、目の前で調理する炉端焼き、地魚の刺身などが食べ放題だ。県内蔵元直送の生酒もオーダーできる。

もうひとつが落ち着いた基調色の吹き抜け空間『ラ・セレース』で満喫する「和洋中バイキング」。ライブ感あふれるオープンキッチンで丁寧に調理されるメニューは驚くほど本格的で多彩だ。季節の食材を中心にした和食や洋食、中華料理、子どもが喜ぶ各種メニューも用意されている。心静かに会席料理を楽しむなら和食処『天正』へ。庭園を眺める席や畳テーブル席で厳選した素材を用いた料理の数々を堪能できる。

翌日のご計画には波穏やかな松島湾をめぐる遊覧船観光もぜひ。松島湾発着の湾内一周定期コースでは、仁王島や鐘島、千貫島、雄島、双子島といった松島を象徴する島々を約50分かけて巡る「仁王丸」コースがおすすめだ。自然の造形美と迫力を間近で眺めることができる。松島とともにある旅時間。美しい景勝に後ろ髪引かれる思いで帰路に就く。