玄関前で回る水車、箱根の峰を映す円窓、土壁に浮かぶ青海波の紋様…。円の意匠と和の美学に貫かれた強羅花扇円かの杜。「円」すなわち「縁」と、宿は人との出会いに心を寄せる。
　玄関をくぐって見上げれば太い梁、数千年前の神代けやきのカウンター…。空間に木と畳が薫り、非日常へと誘い込まれる。

　客室は静謐な回廊沿いに20室。一つとして同じ間取りや眺望がなく、リピーターも味わい異なる部屋を求めるという。 瀟洒な隠れ家を思わせるのが、ベッドルームと座敷、部屋食を叶えるダイニングルームを備えた「スイートルーム」。
　宿で一番広い２室や、京都老舗家具メーカー「ＩＷＡＴＡ」考案の人類進化ベッドを設置した客室、ブックディレクターがセレクトした本が並ぶ客室、箱根大文字焼の大の字を眺める客室の５つの個性的な空間が揃い、滞在を趣向豊かに演出している。
　このほかにも50㎡を超える広さの「デラックスルーム」や２名利用を基本とする「スタンダードルーム」などいずれ劣らぬ快適な空間が揃う。

　どの部屋を選んでも楽しめるのが温泉。20室全室に自家源泉を引いた端正な露天風呂が用意されている。 敷地内に二本の自家源泉を持つ宿。湧き上がっているのは、古代に地中に封じ込められた海水が約千度のマグマに熱せられて吹き出した高温泉で、客室にはナトリウム-塩化物泉。標高約６００ｍに位置し、夏でも冷気を感じる強羅だけに、湯冷めしにくい泉質が人気を呼ぶ。
　箱根寄木細工のルームキーを手に向かう先は大浴場。京都の伏見稲荷をイメージして造られた階段を降りていく。森に包まれた露天風呂とゆったりした大浴場にあふれるのは、ナトリウム-塩化物・硫酸塩・炭酸水素塩泉。やわらかな湯とともに森林浴感覚の湯浴みが楽しめる。
　温泉浴とともに利用したいのがデトックス効果も期待できる岩盤浴。３名まで利用できる２室の設定温度はそれぞれ50度と45度。そのときの体調に合わせて選ぶことができる。
　湯上がり肌のメンテナンスにぜひ体験してほしいのが「月の満ち欠けに応じたトリートメント」。森の中の未体験のリトリートメニューを備えたスパで、優しい木洩れ陽を感じながら施術を受けることができる。充実したリラクゼーションが用意されているのも大きな魅力だ。

　夕食はプランに応じて個室食事処や部屋食で楽しむ「京会席」、または「割烹むげん」で相席（一日３組限定）で楽しむ「水円プラン」が用意されている。変わらぬ人気を呼んでいるのが、鮮魚、和牛、野菜、それぞれの分野の目利きが選び抜いた食材を取り寄せ、板場で粋を凝らして作り上げる絵巻物のような京会席。その彩り、漂う香気、触感、どれもが絶妙、料理人の包丁技と味の冴えに心底驚く。冷たい皿は冷たいままに、温かい椀は温かいうちに…。細やかな心配りや気配りで美食のひとときを演出してくれる。

　新たに誕生したカウンター割烹「割烹むげん」で楽しめるのが、目の前の水素コンロで調理する出来たての料理。無臭の水素を用いて高温で蒸し焼きするため食材がしっとりジューシーに仕上がり、食材本来の香りや味を堪能することができる。
　食材は食通から圧倒的な支持を得る滋賀県草津市の精肉店「サカエヤ」で丁寧に手当てされた近江牛や経産牛、土づくりからこだわり約80種類もの野菜を生産する岩手県「うるおい春夏秋冬」の旬の野菜、京都をはじめ全国の名店に上質な米や京野菜を提供する「河北農園」の賀茂茄子など、総料理長の目利きにより全国から仕入れる厳選食材である。
　ナイトタイムには、ほのかな照明の奥にある蔵バー『こだま』へ。５ｍの欅の一枚板カウンターで宿オリジナルカクテル、ウォッカベースの「円の杜」を楽しむのはいかがだろう。箱根寄木細工のようにもてなしが精緻に組み合わされた宿。いつしか気持ちが円く和らいでいる。