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知れば興味がきっと湧く! ワンポイントエピソード
岩手県・大沢温泉「大沢温泉 山水閣」
今なお湯治場として使われている自炊部から、近年、茅ギャラリーへと生まれ変わった菊水舘へと渡る「曲り橋」。茅ギャラリー2階広間では、江戸時代後期の盛岡藩を代表する絵師、川口月嶺の筆による「大沢八景画帳(複製)」の一遍に、往時の曲り橋を観ることができる。千二百年の歴史を偲ぶ宿のひとこまだ。
山形県・あつみ温泉「萬国屋」
元禄2年6月、弟子の河合曾良とともに温海宿に草鞋を脱いだ芭蕉は、その後、酒田で“あつみ山や 吹浦かけて 夕涼み”と詠んでいる。雄大な景色の中で温海山が夕涼みをしているという擬人句である。山々の眺めひときわの老舗温泉宿の風情で、ぜひ一句。芭蕉は温泉が好きではなかったとの逸話も残るが…。
栃木県・湯西川温泉「本家伴久」
壇ノ浦に敗れ、湯西川を安住の地とした平家一族。清盛の嫡男、重盛の六男・忠実公によって発見されたと伝わるのが川原に湧き上がる温泉。温泉が湧くのなら子孫の誰かが掘り起こすだろうと、そこに「藤の木で作った馬の乗り鞍」や金銀財宝を埋めた。宿が大切に守り続ける「藤鞍の湯」の名の起源である。
群馬県・草津温泉「草津望雲」
“上毛の國草津は、まことに海内無双の霊湯にして、湯宿の繁昌いふばかりでなく、風流の貴客絶えず…”。十返舎一九の「上毛草津温泉道中」の一節だが、その湯宿こそが草津望雲である。創業年の1599年から約200年後の文政年間に書かれたものだが、当時すでに望雲が賓客を泊める宿であったことがわかる。
山梨県・甲府湯村温泉「常盤ホテル」
昭和22年に民情視察で訪れた昭和天皇を始め、高松宮様、秩父宮様、三笠宮様、常陸宮様、皇太子時代の今上天皇など多くの皇族方をお迎えしてきた歴史あるホテル。皇室御用達といえば多くを語らなくてもいいだろう。武田信玄公がこよなく愛し、戦の傷と疲れを癒したと史実に残る温泉が今も湧き続けている。
長野県・別所温泉「旅館花屋」
荘厳な土壁を眺め、貴人のためだけに使われた式台玄関を入ると次の間、壱の間、二つの書院を持つめずらしい造りの座敷。あんずの木そのままの床柱や、六角形に削った木を使った「猿頬天井」、細く加工された障子の組子など、繊細な技巧が随所に。5つ星の宿ではこの宿だけの「武家屋敷」宿泊体験をぜひ。
岐阜県・飛騨高山温泉「本陣平野屋 花兆庵」
豊臣秀吉の家臣、金森長近が天神山古城とともに築いたのが高山の町。城を取り囲むように高台を武家地とし、一段低いところを町人の町とし、京都になぞらえて東山に寺院群を設けた。宿はその名の示すとおり、高山陣屋前。古い街並みや名物の朝市なども徒歩圏と、古都高山の雰囲気を楽しむには絶好である。
島根県・玉造温泉「佳翠苑皆美」
「神の湯」とともに名高いのが、江戸時代を代表する茶人の一人、出雲松江藩10代藩主松平不昧公の下で開花した茶の湯の文化。茶風は不昧流として続き、銘菓(山川、若草、菜種の里など)や松江名物のぼてぼて茶などは「不昧公御好み」として現在に伝わる。茶のおもてなしも老舗宿皆美の心得である。
山口県・萩温泉郷「萩城三の丸 北門屋敷」
世界遺産「萩城下町」唯一の宿。三の丸は毛利一門など重臣の住居地だった地域。藩主の通った御成道・本町沿いに面した北門屋敷では、表門の基礎部分に江戸時代の貴重な石垣が残る。「古地図で散策できる」と言われるほど当時の江戸の町割がそのまま残る萩。維新の英傑を偲ぶスポットも思いのままだ。