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宿の美食を愉しむ前に知っておいていただきたいこと

今宵天空に遊ぶ しょうげつ料理茶屋「水琴亭」

 懐石料理と会席料理。同音異義語で混同されがちだが、厳密にいうと大きく異なる3つの特徴がある。まず、料理の目的が異なる。懐石料理は本来「お茶を美味しく味わう」ためのもので、会席料理は「お酒を美味しく味わうもの」と定義されている。次に異なるのが料理を食べる場所。懐石料理が茶室で提供されるのに対して、会席料理は料亭や宴席で提供される。また、料理の順番も異なり、懐石料理ではまずご飯と汁、向付が出されるのに対し、会席料理ではご飯や汁物が最後に提供される。割烹料理も会席料理と流れは同じだが、カウンターで直接注文し、料理人がその場で調理したものを一品ずつ提供する料理スタイルだから、懐石料理とも異なる。

 安土桃山時代に、禅宗の修行僧たちが修業中の空腹感を自身の懐に温めた石を抱いて紛らわせたことが起源とされる懐石料理。その懐石料理を茶の湯の世界に持ち込んだのが千利休といわれている。軽く食べておいた方が濃茶を美味しくいただけるという理由から、お茶の前に出される料理という位置付けが生まれた。だから懐石料理の中でもお茶会のための料理を「茶懐石」と呼ぶ。

 現代はそのあり方を変え、季節を感じる食材を用いたコース料理としての意味合いが強い懐石料理。提供方法も、冷たいものはそのままに、温かいものは温かいままに、目でも舌でも楽しめる一皿一皿が絶妙の頃合いを見はからって運ばれる。美しく美味しく食べてもらえることを願ったスタイルへと様変わりしつつあるようだ。5つ星の宿の料理のほとんどは会席料理だが、「懐石」と「会席」、この違いにこだわって探すと本格的な懐石料理にこだわった宿を見つけることができる。そうした宿の多くは日本の宿文化である「お部屋食」や和風の趣あふれる食事処で懐石料理を愉しんでいただくことを旨としている。

純和風のくつろぎに、ひときわの満足を添える5つ星の宿の懐石料理

 5つ星の宿の中から、純和風のおもてなし空間で懐石料理が楽しめる宿を挙げていく。八千坪の美しい日本庭園と伝統的な数奇屋風建築で知られるのが宮城県秋保温泉の「茶寮宗園」。静けさに満ちた料亭で心尽くしの懐石料理を賞味できる。神奈川県箱根では「強羅花壇」と「箱根吟遊」。強羅花壇では宮家の姿を今に伝える洋館「旧閑院宮別邸」で、また、箱根吟遊では部屋食で本格的な美味しさを堪能できる。神奈川県にはもう一軒、湯河原温泉の「ふきや」。二十四節気を感じる月替わり献立がホームページに紹介されている。山梨県石和温泉の「銘石の宿かげつ」では茶懐石にも通じるおもてなし。器など細部にまで心を配った正統の懐石料理を風雅なくつろぎとともに楽しめる。

 料亭をルーツとするのが、北海道登別温泉の創業百年を超える老舗旅館「滝乃家」だ。登別の風土が育んだ海の幸山の幸を凝縮し、滋味なる味わいに仕立て上げた懐石料理がひときわ味わい深く、器に登別の四季を描き出している。2018年にはJRの「TRAIN  SUITE四季島」でも話題になった。

季節の訪れや歳時記の季語に思いを寄せて食膳に「走り」「旬」「名残」を演出する。そんな美食のひとときが楽しめるのが岐阜県下呂温泉の「今宵天空に遊ぶ しょうげつ」である。全室が趣異なる料亭個室が用意されていて、飛騨牛など厳選した素材を用いた調理を堪能できる。

つつじ亭 神無月・霜月献立例(先附)

つつじ亭 神無月・霜月献立例(先附)

つつじ亭 神無月・霜月献立例(焼肴)

つつじ亭 神無月・霜月献立例(強肴)

 また、一客一亭の心を大切に美食のひとときを演出してくれるのが群馬県草津温泉の「つつじ亭」だ。和の基本を守りながらも洋の様々なスタイルを加味して創作される懐石料理は固定ファンが多く、月に4回訪れる人もいるほどだ。

 東京芝白金の料亭「柳生」に伝わる本格割烹料理と京懐石を礎に、日本料理の粋を追究し続けているのが静岡県修善寺温泉の「柳生の庄」。そして名旅館「あさば」だ。ともに温泉風呂を備えた部屋にやすらぎながら奥義を究めた懐石料理を心ゆくまで堪能できる。駿河湾や狩野川、天城山麓など伊豆の食材にこだわった献立は味の芸術を思わせる見事さである。また、世界農業遺産「能登の里海里山」の豊かな食材を輪島塗の器で味わう創作懐石と囲炉裏懐石で満喫できるのが石川県輪島ねぶた温泉の「能登の庄」だ。一日も早い復興を願うばかりである。

能登の庄「ねぶた茶屋炭火焼き懐石料理」

能登の庄「創作懐石料理」

洋の華やかさを添えた懐石料理や、お客様の趣向に応えた懐石料理

女将からの「お帰りなさい」の果実酒ではじまる、地産や季節の滋味で彩られた滝乃家の懐石料理例

割烹旅館の歴史を受け継ぐ宿ならではの美食だ

 料理にフレンチの華やかさと懐石料理の美の融合を見るのが北海道洞爺湖温泉の「ザ・レイクビューTOYA乃の風リゾート」で、今までになかった食のおもてなしが話題を呼んでいる。名門「鬼怒川金谷ホテル」では、懐石料理に西洋のテイストを合わせた伝統と革新による金谷流おもてなし料理「金谷流懐石料理~和敬洋讃~」。「西洋膳所ジョンカナヤ麻布」をルーツとするオリジナリティにもあふれた美食を、ジョン金谷鮮治が愛したフランス人アーティスト、ガブリエル・ロワールの手によるスカルプチャードグラスが燦めく「ダイニングJON KANAYA」でいただける。

 有馬温泉の高級料理旅館といえば「欽山」。ミシュランガイドで兵庫県唯一の「一つ星認定」。厳選した素材を用い、お客様の食事時間から逆算して調理される京風懐石料理を感染症対策が徹底された客室や個室料亭で満喫できる。世界遺産の二社一寺の特別景勝地に位置する栃木県日光温泉「日光千姫物語」では、京風の含め煮で味わう日光湯波など地産地消にこだわった懐石料理を基本に、A5ランクのとちぎ和牛のしゃぶしゃぶなどを加えたグレードアップ懐石が人気を呼ぶ。また、京風懐石でありながら、宿オリジナル懐石料理で人気を集めているのが首都圏から身近な静岡県熱海温泉「古屋旅館」である。

「会席料理」で美食の誉れ高い宿

 例えば岐阜県長良川温泉「十八楼」では国際薬膳食育士など数々の資格を持つ料理長による匠の技と誇りを込めた料理に出会える。まら、富山県宇奈月温泉「延楽」では創業者から受け継いだ包丁技が光る美食を亭主自ら選んだ器でいただく「雅膳」が話題を呼ぶ。そそて「美味・滋味・香味の園」と称される美食でグルメの下を唸らせているのが鹿児島県指宿温泉「いぶすき秀水園」である。名物料理「薩摩黒豚」柔らか煮」はまさに絶品だ。

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