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フォッサマグナの温泉を伝える世界最古の宿
地質学では東北日本と西南日本の境目となる地帯、フォッサマグナ。命名したのはこの大地溝帯が糸魚川から静岡にまで至っていることを発見したドイツの地質学者ハインリッヒ・エドムント・ナウマンである。大森貝塚を発見したシーボルトの研究を助けたことでも知られている。
そのフォッサマグマの地下で涵養され湧出している天然温泉が楽しめるのが山梨県西山温泉の「慶雲館」である。705年(慶雲2年)まで遡る慶雲館の歴史とともにあった自然湧出温泉の湧出量は毎400リットルにもおよび、当時世界一が狙えるとまでいわれていた。ちなみに慶雲館はギネス認定「世界最古の宿」として知られている。甲斐の山深く流浪してきた都人、藤原真人(藤原鎌足の長子)もよって発見され、後に武田信玄や徳川家康といった名将や多くの文人僕客に愛されてきた由緒ある宿である。
慶雲館では2005年に開湯1300年のアニバーサリー事業として、宿の隣りで湯泉掘削をしたところ、想像を絶する泉温52度、毎分1600リットル以上(ドラム缶約8本)の自噴泉を掘り当てた。1300年前からの自然湧出泉と掘削自噴泉と併せれば毎分2000リットルにも及ぶ湯量である。慶雲館ではSDGsの観点から使用量は4分の1にとどめ大切に守っているというが、趣異なる6種類のお風呂はもちろん、各部屋のお風呂、給湯、シャワーに至るまで加温・加水のない日本随一の源泉を使用し、全館源泉掛け流しの宿として本物の温泉の素晴らしさを提供している。
ジオパーク由来の日本一の高温泉を楽しむ2つの宿
日本列島が大陸の一部だった時代から日本海形成に関わる火成岩類や地層、地殻の変動によって形成されたリアス海岸や砂丘など多彩な海岸地形などを見ることができる山陰海岸ジオパーク。湯村温泉もその一部。開湯は平安時代初期の848年で、「さびない身体をつくる長寿の湯」として人々の暮らしの中に深く根付いている。町の中心部にあるのが「荒湯」という湯温日本随一の98度、湧出量毎分470リットルの噴出泉。湯村温泉全体では総源泉数約60、総湧出量は毎分2,300リットルにも及ぶ。温泉への依存度は強く、温泉病院という名称の病院や温泉小学校という学校もあるそうだ。
湯村温泉の老舗宿といえば1702年(元禄15年)創業の「井づつや」。赤穂浪士討ち入りのあった年である。井づつやも全館源泉掛け流しの宿。宿自慢の自家源泉の湧出量は毎分470リットルにおよび、バラエティあふれる風呂に掛け流している。近年はリニューアルが図られ、生まれたての新鮮な源泉を湯村の自然とともに楽しめる客室も誕生している。
また、温泉城(ゆのじょう)城主時代を加えれば長大な歴史を持つのが「朝野家」である。建物はお城造りでお殿様お姫様気分の旅を演出してくれる。全館全室源泉掛け流しの宿ならでは、宿所有の5源泉から毎分500リットルの高温泉が湧出している。趣向豊かな造りの客室には、湯篭もりが満喫できる隠れ家のような空間も誕生している。