自然林を抱く約三千坪もの庭園に抱かれたつつじ亭。
　客室は本館『左近の棟』に６室、離れ家『右近の棟』に４室。わずか10室が季節や周囲の自然の豊かな営みの中でやすらぎの刻を奏でている。心休まる環境と小宿ならではの行き届いたおもてなし、その味わいこそが宿の真髄であり、顧客も月を重ね歳を重ね訪れる。
　２０２３年には本館がリニューアルオープンし、全10室で温泉が楽しめるようになった。客室露天風呂を満たすのは強酸性の「万代鉱源泉」。洗い流した二・三日後に肌の違いを実感するそうである。

　滞在は２つのスタイルから選ぶ。「本館」を選べば風情あふれる貸切風呂で硫黄香たっぷりの「湯畑源泉」が利用できる（有料）。２つの源泉を楽しみたい人におすすめだ。食事は個室料亭『花回廊』でゆっくりと堪能できる。
　「離れ家」を選べば室内露天風呂で温泉を独り占め。「万代鉱源泉」と「湯畑源泉」が２部屋ずつ引かれている。食事は「部屋食」だから気兼ねなく楽しめる。２０２４年には特別室２室が刷新され、充足感ひときわの美室に生まれ変わっている。暖炉付離れには家族やグループ６人で団欒を囲めるダイニングテーブルも用意されている。

　料理は宿の食の系譜を受け継ぐ料理長渾身の美味揃い。月替わりの本格懐石料理を堪能できる。日本の滋味を洋風仕立てで、あるいは伝統料理をモダンにというように斬新な趣向を凝らした料理の数々は、前菜から水菓子まで決して飽きさせない。リピーターが多いのも頷ける。
　配膳も絶妙の間合いだ。一品一品に一客一亭の心が宿る。到着時に女将さんからいただいたシャンパンを一緒に楽しむのはいかがだろう。
　大浴場は万代鉱源泉掛け流しの『うららの湯』。開放感あふれる檜露天風呂は絶好だ。聞こえるのはこぼれる湯音だけ。庭には鹿も現れると聞く。湯上がりには暖炉の温もりの談話室や、静謐な庭園にも癒される。つつじ咲き競う頃の風情は何にも増して美しく、鮮やかに心に残る。