宮沢賢治が自然と人間が調和する世界を「イーハトーブ」と名付け、理想郷と考えたという岩手県。賢治にゆかりの大沢温泉は、四季のゆりかごともいえる自然とともに千二百年もの時を紡いでいる。

山水閣は洗練された近代建築の純和風旅館で、各種施設が集う。渓流を望む客室は4タイプ。高村光太郎愛用の部屋を再現した「牡丹の間」や桧バス付二間タイプなど、端正な和の情緒でもてなす空間が心静かなくつろぎを演出している。

旅荷を解いたら念願の湯めぐりへ。山水閣宿泊者だけが楽しめるのが『山水の湯』。高い天井と大きなガラス窓が印象的な大浴場はゆったり開放感あふれる造りで、詩情豊かな山々の彩りを眺めながら心地良いひとときが楽しめる。川面を渡る風に包まれる露天風呂の風情も格別である。もうひとつの大浴場が川辺の彩りを眺める半露天風呂『豊沢の湯』だ。深緑から紅葉に向かう頃はガラス戸が開放された半露天で、雪景色が美しい冬期は仕切られて内風呂になる。山水閣にはさらに宿泊者専用貸切風呂も3室あり、15時から24時、翌朝6時から10時は無料で使える。

楽しみは賢治ゆかりの自炊部湯治屋。賢治も愛した名物混浴露天風呂『大沢の湯』が待っている。豊沢川の流れに寄り添う佇まいは見晴らしも開放感もまさに圧巻。源泉掛け流しの湯にどっぷり浸かれば醍醐味もひときわ。これぞ温泉！である。湯けむりの向こうに”いで湯の社交場“として賑わった時代も立ち上がる。混浴だが女性の入浴時間も設定されており、女性専用『かわべの湯』とともに秘湯感を味わえる。常連客にも太鼓判の内風呂『薬師の湯』はレトロタイルの味わい深さそのままに改修されている。歴史に思いを馳せながらの湯めぐりに深く癒されることだろう。