緑豊かな森に抱かれた小高い丘に佇むホテル森の風鶯宿。西洋の城を思わせるが、癒しの時間は郷土の温もりに満ちている。
　櫨染色の建物に面して広がるのが、森の丘や森の渓谷など幾つものガーデンを備えた約２万坪の『フラワー＆ガーデン』。世界的庭園デザイナー石原和幸氏の監修だ。11月から１月初旬にかけて開催される「ナイトガーデン＆イルミネーション」では宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をテーマに鉄道レールをイメージした光のラインや、銀河に浮かぶ惑星のような球体イルミネーションが幻想的にきらめく。
　ロビーラウンジの階段には、賢治の「風の又三郎」や「どんぐりと山猫」などをモチーフにした可愛らしい人形が飾られている。アーティストはせがわいさお氏の作品だ。

　男女入替の湯殿は「洋風」と「和風」の２カ所。誰もが魅了されるのが眺めダイナミックな空中露天風呂だ。肌ざわり柔らかな温泉から望むのは雫石盆地、そして石川啄木が「ふるさとの山はありがたきかな」と詠んだ岩手山や姫神山へと広がる眺望だ。
　約４５０年前に開湯した鶯宿温泉はかつての湯治場であり、豊富な湯量と美肌の湯で知られてきた。その名泉を独り占めできるのが源泉１００％掛け流し露天風呂付客室『四季彩』だ。
　和室をはじめ、低層ベッドの和室ツイン、洋室ツイン・トリプル、和洋室、電動リクライニングベッドを備えたバリアフリールームなどタイプも多彩。客室風呂は檜と陶器の２種類。宿泊者には浴衣や巾着袋、アメニティーなどにも四季彩専用の高級特別グッズも用意されている。
　食事は岩手の郷土が育んだ海山の幸満載の四季亭専用メニューを懐かしさを感じる南部曲がり屋風の和食処『さんさ亭』の個室席で満喫する。夕食は厳選した地元食材を用いて腕を振るった特選創作会席、朝食は「四季彩特別和食膳」が用意される。

　アニバーサリーや大切な人との滞在に最適なのが、南部片富士とも称される岩手山を見渡す庭園に囲まれた源泉掛け流し風呂付離れ『嘉苑』だ。
　貴賓室「寿鶴」と、３つの特別室「光彩」「逢滝」「胡蝶」。数寄屋造りの「寿鶴」は17畳と６畳の和室、特別室３室は12・５畳と６畳の和室を備えた純和風空間で、静けさに包まれた極上の時間を紡いでいる。
　源泉掛け流しの醍醐味は檜の内風呂と移ろいゆく庭園を眺める露天風呂で堪能できる。
　食事は夕食朝食ともに温泉旅館の王道、部屋食で。夕食は料理長自慢の「嘉苑特別会席膳」を上げ膳・据え膳で周囲に気兼ねなく楽しめる。

　一般客室プランの夕食も美食揃いだ。数種の膳を順々に楽しむ｢創作会席｣や｢創作和食｣、さんさ亭の囲炉裏端で味わう｢炉端会席｣、五種の味覚料理の｢和食膳｣がプランに応じて楽しめる。
　料理長がめざすのは「洋食のフルコースを和食で作るなら…」をコンセプトとする季節と食材を大切にした料理の数々。一品一品ワクワクしながら楽しめる「一献懐石」でグルメなひとときを演出してくれる。バイキング料理主流の今だからこそ、その姿勢が嬉しい。朝食も雫石の採れたての食材、作りたて料理が満載だ。

　夜８時から２階フロアに響き渡るのは呼び太鼓。２階の『おまつり広場』にどんどん人が集まってくる。
　幕開けは岩手では指折りの民謡歌手による民謡と郷土芸能ショー。提灯の下には屋台や射的、くじ引きなどまるで縁日のような昔懐かしい出店が建ち並ぶ。大人も子供も楽しめるスタッフ渾身のおもてなしだ。
　続いてお客様参加の餅つき。夕食を終えたばかりでもつき上がったお餅がどんどんなくなっていく。笑顔いっぱい、お腹いっぱいの演出だ。
　翌朝は世界最大級のフラワー＆ガーデン散策もぜひ。花々の彩りに包まれながら本場英国のガーデニング手法も垣間見ることができる。
　フラワー＆ガーデンへと続く「うぐいすの森」は雫石の季節を感じる散策路。夏には小川でイワナのつかみ取り、秋にはキノコ狩りも体験できる。まるで故郷の野山に遊んでいるような気分だ。